
前職(ホテルのイタリアンレストラン)で働き始めたばかりのある日。
お客様から注文を受けて戻ってきた上司が、一本の煌めくボトルを私に差し出しました。
「どうだ?開けてみるか?」
その一言に、大きな緊張とワクワクが一気に押し寄せました。
そう。これは私にとって人生初のスパークリングワインの開栓だったのです。
入社後、開栓手順は何度も教わっていました。
自宅でもYouTubeで開栓講座を見たり、自分でボトルを買って予習したり。
準備はしていたつもりでしたが、実際にお客様の前に立つとプレッシャーは想像以上。
身体中が震えるのが自分でも分かりました。
注文してくださったのは、雰囲気の良い40代くらいのご夫婦。
初めてのご来店で、優しそうなお二人。
「格好よく開けたい…!」と思いながら、
売価9,000円のボトルを我が子のように抱きかかえ、いざ開栓へ。
キャップラベルを切り、コルク周りのワイヤーも無事取りました。
ここまでは順調。いや、むしろ世界で一番うまいんじゃないかと、自分に言い聞かせていました。
さあ、あとはコルクを抜くだけ。
スパークリングのコルクは一度緩めると、内圧で勝手に浮いてくるので
慎重に、両手に全神経を集中させながら、ゆっくりと調整していきます。
「飛ぶなよ…飛ぶなよ…」と心の中で呟きながら…。
そして、コルクが半分ほど上がったそのとき——
事件は起きました。
「お兄さん、初心者さんなのに上手だねぇ」
お客様の男性からの温かいお言葉。
「ありがとうござ…」と言いかけた瞬間。
ポンッッッッッッッッ!!!!!?????
破裂音。
我が腕に眠る9,000円のスパークリングワインから発せられたその音に気づくまで、2秒。
頭は真っ白になりながら、何が起きたかを必死に整理しました。
順調 → 褒められる → 嬉しい → 脱力 → 油断(実際に起きたこと)
破裂音 → コルク飛ぶ → 泡吹き出る → 各所から憤怒の声(起きそうな未来)
そう、私はレストランスタッフが絶対にやってはいけないミスを、
スパークリングワイン初開栓のその日に犯してしまったのです。
さらに悲劇は続きます。
私は“破裂音”が大の苦手。
風船、花火、全部無理。
当然、コルクの飛ぶ音も例外ではなく…。
「いやああああああん!!!!」
情けない声をあげたのは、他でもない私でした。
その間にも、スパークリングは泡を吹き続けています。
気を取り直し、私はすぐに処理とお客様への対応、そして周囲のスタッフへの報告をこなしました。
上司の判断で一時的に休憩をもらった私は、休憩室に直行し、
スパークリングワインの開栓動画を鬼のように見漁りました。
何もしない時間=メンタル崩壊に繋がると知っていたからです。
とはいえ、休憩が終わりレストランに戻る足取りは非常に重く、
「お客様、まだいるかな…」「みんな怒ってるかな…」と不安でいっぱいでした。
しかし、戻ってきたときに見た景色は、想像と違っていました。
お客様はすでに退店されていましたが、
スタッフ全員が私に温かい笑顔を向けてくれたのです。
「先ほどのお客様、大丈夫でしたか?」と聞く私に、上司はこう言いました。
「ミスこそしたものの、その後の対応は一品で何も不快な思いはしていない。寧ろあの新人さんの成長が見たいからお店に通うことにするってさ」
なんて優しいお客様…。
SNSでは“お客様は神様か否か”の議論をよく見かけますが、
この時のご夫婦は、私にとって本物の“神様”でした。
しかも、お客様は
「新人さんの練習代」として、スパークリングワインが買える金額のチップまで残してくださったのです。
私はその日を境に、こう宣言しました。
「スパークリングワインの開栓は、全部私にやらせてください!」
1ヶ月で20本以上のボトルを開けて練習を重ね、
リピーターになってくださったそのご夫婦の前でも、
日に日に上達した姿をお見せすることができました。
この経験を通して、私は強く感じました。
人間誰しもミスはする
しかしミスをした時に咄嗟にどんな言動をするか
ミスをした時に周囲の人が自分にどんな反応を示すか
これだけは普段の自分の行動の積み重ねだと。
日々慎ましく、努力を怠らないよう過ごそうと思えたワインスキスキの体験談でした
ーーーーーーーーーー
ブログランキング参加中!
この記事が良いと思ってくだされば、下のバナーをクリックして応援してくださると嬉しいです!🍷
ーーーーーーーーーー
🍇その他SNSはこちらから!
ーーーーーーーーーー